S級の視線
                                    平田生雄
 第30回   【Players First

 
 この言葉はサッカーに限らず、スポーツを指導する者にとって欠かせない基本姿勢であると思っています。
 しかし、「先ず選手ありき」という言葉は知られていても、現実的には「軽視」されていたように思える。


 指導者・権力者が「絶対的」である環境下では、スポーツに欠かせない「Freedam」を奪ってしまう事や「個性と創造性」の芽も摘んでしまう危険性も否めないのである。言われた事を守り、教えた通りにプレイしないと叱られて、ミスを繰り返すと試合に使ってもらえなくなる。
「頑なに伝統を守る」ような[Football]は、今でも見受けられるようですが、指導者は「最新の指導プログラム」を入手したりして「トレーニングやシステムの改善」に関しては熱心である。


 確かに、世界の情報を簡単に入手出来る「便利な時代」ではあるが「今、何が必要で何をすべきか」は選手を把握・理解していないと出来ないものであり、それが「究極のレシピ」であったとしても指導者の自己満足でしかないのである。


 古くて身近な話で恐縮しますが、枚方FCの近江達先生と指導について議論した時に「心に響いた事」が有りました。
 近江氏先生のユニークな指導法「サッカーノート」は専門誌でも紹介されましたが、指導の処方ではなくて基本的な理念が「先ず選手ありき」である事に感銘を受けたのである。
 高浜FCの大林監督も「近江イズム」の継承者であり、視野の広い感性で指導理念を確立されている。

 今では【Players First】は公認指導者の「必須科目」のようなものですが、育成の指導法も無かった時代から「模索しながら辿り着いた基本理念」を貫き続けている指導者が居られた事を知る由も無いのではなかろうか。


 「特別に難しい事なんかやってないけど、手掛けてみると奥深いし、成長してゆく子供達に刺激されるのですよ。」と笑顔で回顧される【達観】(近江先生を敬愛する愛称)の言葉が、新鮮に脳裡に残っている。


園芸家が晩年に行き着くであろう「心境」を、吉川英治の名言(名句)で締め括ってみました。


 「菊づくり菊見盛りは陰の人」