S級の視線
                                    平田生雄

 第40回   【進歩と進化


 私自身、サッカーとの出会いから半世紀近くなるわけですが、その短い歴史を紐解いてみると色々な事が変化しているのに驚かされる。
 ピッチだけは何も変わっていないが用品・用具の変遷を見ると面白いし「俺たちの頃の道具といえば、・・・・」で、その時代が判るものである。


 毛糸の厚いストッキングと幌布に竹の入ったレガース、雨が降ったら重くなってずり落ちてくるし、股ズレしそうなゴワゴワしたパンツと色褪せたユニフォームが当時のサッカーの用品・用具の定番みたいなものでした。
 スパイクシューズは10円玉のような革を数枚重ねてポイントを打ち付けて、靴底から釘が覗いて来て靴下は血が滲んでいる。
 アッパーの部分も硬い革で覆われていて、馴染むまでには豆が数箇所に出来ることも少なくないし、ほころびに当て革を貼り付けて使っていたものである。


 サッカーボールはチューブに空気を入れて、ニードル(十手型の用具)に紐を通してボールの口を閉めていたし作り方が下手だと口が開いてくるし、革の伸びたボールは異常な変化をするし、雨の日には重さが二倍にも感じられてヘディングの練習等はシゴキの定番でもあった。
 しかし、私達の時代は変革の過渡期であったので中学時代には張り皮のボールが出始めて、高校時代には固定式のゴム底やアルミ製のポイントも開発されていた。

 そんな時代にサッカーを始めていたので、用品・用具の手入れは欠かせなかったし古くなったスパイクシューズも捨てられない性分が身に染みている。
 用品・用具の開発はオリンピック・W−Cup等の大会が大きく関与しているし、アスリートには記録と用具は重要なファクターなのです。


 Science of Sports の言葉通りスポーツメーカーは新製品の開発と共に使用するアスリートやチームの選定も凌ぎを削って来たのである。
 軽くて動きやすいシューズ、着けている事を忘れそうなレガース、肌に優しいユニフォーム一式、コーティングされた蹴り易いボール・・・
 最近のスパイクシューズには表面に特殊加工まで施されている。
 個人的な意見であるが「そこまでやるか?」と閉口してしまい、開発が進化ではなく変化しているのは好ましくないと感じている。
  私のような昔気質にはオーソドックスな物が落ち着くし使い易いのである。


 私自身、スパイクシューズには「こだわり」があってA社製の最高級モデルに出会ってから30数年間、それしか使わないし新品でも幾つか履いて納得しないと絶対に駄目な性分である。
 当然、同じ物を頻繁に使う訳ではないので使い回して手入れさえ怠らなければ10年位は使い心地良く履けるし靴底が磨り減って無くなるまで使っています。


 良い道具は良い技術を磨く指針でも有ると思っているし、足が命であれば尚更「こだわる」を持ちたいものである。
 古武術の章でも触れていますが、無駄なエネルギーを排除すれば道具も長持ちするようであり習得すべき技術の反復練習にも成果が上がるはずである。
 なによりも、貧困に喘ぐ国の子供達はPelada(裸足のサッカー)であり用具の進化に頼らずエンジョイしながら技術を磨いているのである。


 新製品の開発は終りが無いのですが、必要最低限の用具さえあれば創造的なプレーが生まれてくるのも事実である。

                            【生】のメモ「ボールと足」