S級の視線 |
平田生雄 |
第41回 【Elastico】 この言葉を聞いて「あれか!」と解る人は皆無に近いと思われるが、ロナウジーニョの得意とする「アウト&イン」のフェイントをTVのCM等で見た事は有る筈です。 トリッキーなフェイントの代表格と言えば、1950年代にブラジルの[ディディのフェイント]として有名になったヒールリフトで頭越しにボールを浮かせるプレーであり、ペレのいたサントスの右ウイングで活躍した日系二世の金子が得意にしていたプレーで[Kaneko]と呼ばれていた。 一瞬にして相手の逆を取って抜き去る[Elastico]は足し算から生まれたのである。 私も30数年前に彼のプレーに魅了されて覚えたフェイントであり[Elastico]の誕生秘話を聞かされた時に驚きと納得が合体した思いであった。 ペレ の、右に行く振りをして右インサイドで左に切り返すフェイントと、ガリンシャ の左に行く振りをして右アウトサイドで出て行く「逆の動き」を合体させたのである。 稀代の名手二人が相手を簡単に抜いてしまう得意なプレーであるが、全く逆の動きを連動して相手に仕掛ける事が出来る「新製品」が誕生したのである。 セルジオ越後氏は、これを考案した時にコリンチャンスのチームメイトであったロベルト リベリーノ と何度も繰り返して会得したのだと述懐してくれた。 リベリーノ は左利きなので対面すれば鏡に写したような手本が目の前に有るので、お互いに試行錯誤して幾つかのパターンを考案してゴムが伸び縮みするような不思議なフェイントに[Elastico] と命名したのである。 確かに リベリーノ の切れ味あるフェイントと変化する弾丸シュートは絶品であるが「セルジオは技の玉手箱みたいに器用で巧かったから、セルジオから盗んだフェイントやプレーは多いよ」と数年前に語ってくれたのである。 本家のセルジオ越後氏は幾つかのバージョンを状況に応じて使い分けていた。 可動幅と速さに微妙な変化をつけて、インサイド&インも駆使する事で応用の利く「まさに柔軟性の有るフェイント」へと改良を重ねたようである。 「百聞は一見に如かず」動画で見れば一目瞭然なのに、上記のような表現しか出来ないジレンマを感じますが本意を、ご理解下されば幸甚である。 今のセルジオ越後氏の体形からは想像出来ない方も居ると思いますが、相手を翻弄するフェイントや緩急自在のボールテクニックを見て「あれだけ出来れば楽しいだろうな」と感動さえ覚えたものである。 サッカー教室で子供達を手玉に取るプレーも「子供と大人では早さとタイミングが違うから子供の反応や動きを観察すれば簡単だよ」笑って答えてくれるが、意のままに何人もの子供達を操るようなプレーは「非凡を超えている」と感じたものである。セルジオ越後氏からは多くを学んできたが、決して難しく教えないし「私が出来る事は努力すれば誰でも出来るよ」が師の子供達へのメッセージである。 子供から「どれ位で覚えられるの?」師曰く「努力すれば、たった三年位だよ」ジョークを交えて必要なエッセンスも優しく包んで話しかけるのである。 石の上にも三年?「難しくはないが簡単じゃない」私の口癖であるが「努力すれば誰でも・・・」師の笑って答える声が聞こえてきそうである。 実戦で使えるフェイントの新製品を創造出来るのは、我々よりフレッシュな感覚と感性を持っている子供達であると思っているし期待したいものである。 そして[Elastico]の誕生秘話にあるヒントも応用と活用が出来そうである。 【ゴムのフェイント = Elastico 】より |