S級の視線
                                    平田生雄

 第45回   Confidence


 「自信を持ってプレーしろ。」何気なく使う矛盾した言葉であり、選手の立場からみれば上手く出来ない時やミスを繰り返した時に聞く言葉であるから、ますます落ち込んでしまうものです。
  何事でもそうであるように、練習した事が使えるようになると自信が芽生えて来るもので、足し算している時期( Golden age 等 )には失う物も無いので習得した事が全て身に付いたような錯覚をしてしまうものです。


 【Confidence】という無形の財産は自ら築き上げるものであり、積み上げるプロセスで[積木くずし]のような挫折と自信喪失を味わうこともあるのです。
しかし、崩れ落ちた【Confidence】は有形の資産とは異なり失われる物ではなくて、土台が積み上げたブロックの[重量]に耐えられなくて崩れ落ちたようなものなので、不要な空箱を整理して基礎から整理して積み上げる事で良質の自信が甦るもので、挫折は向上へのハードルと思えば耐えられる苦痛でもある。



 このような手法は、サッカーの技術や戦術の習得にも言えるようで、ランダムに詰め込んで[量]は増えても「上手く使いこなせない」場面に出くわす事が有ります。
 指導者にも当てはまる事であり、知識とプログラムを[頭脳の引き出し]に整理しておけば「備え有れば憂いなし」であり、経験を積み重ねていくことで【質と量】も改善されて【Confidence】として蓄えられるものです。
 【Confidence】は、見せびらかすものでも自慢するものでなく、ひたすら資質を磨くことが肝要であろうと思われる。
 このようにして書き綴ると、難しい事のように思われがちで有るが、西川きよし師匠に習って「出来る事からコツコツと」は良いヒントになると思います。


 ミスの大半は難しい事ではなくて、一見簡単に見える何でもないプレーに多く見られるもので「何故?」と目を覆いたくなる事も少なくないものです。
 改善の手法は幾つか有ると思いますが特効薬は見当たらないものです。
 「練習では出来るのに試合になるとミスが多い」この言葉はスポーツ界では永遠に語り継がれる[愚痴の定番]ではないでしょうか。


 [第5話]を参照するまでもないが、上手い選手は良い仕事が出来るだけでなくミスも少ないのですがパーフェクトではないしイージーミスも有るものです。
 子供達のミス(?)を嘆く指導者も多く見られるが「下手じゃないよ、まだ上手く出来ないだけだから」と思えば気持ちも安らぐ筈で【Confidence】の小さなハードルは目の前に有る訳ですから「出来る事からコツコツと」やれば楽しいものです。


 長所を伸ばし欠点を克服する事も、大きな自信になるものですが「試合でも出来るようになった」達成感は計り知れない【Confidence】の始まりでもある。
 その土台は、幼年期から自然とふれあい、色々な遊びを体験して育まれる[心身共に健常な受け皿]であり、良い環境と愛情によって度量も大きくなるものです。
 誰もが判っている事のように思われるが、形の無いものであり努力しても変らないように思われて置きざりにされてしまうものです。


 もし、私に神様が[無形の財産]を与えてくれるのであれば【Confidence】を選択するかも知れないが、自分で築き上げる楽しみを奪われるのであれば神様には何もしないで見守っていて欲しいものである。
 人それぞれであるが足りないものが多いから、励み・苦しみ・もがくのであり満ち足りた人生は退屈で面白くないかも知れない。


 河島英五(故人)の『人生旅の途上』が脳裏に浮かんでくる。


                               【生】のメモ[無形の財産]より