S級の視線
                                    平田生雄

 第76回   賢く走る


 このフレーズを聞くと真っ先にジェフユナイテッド千葉とイビチャ・オシム監督のイズム=【走る】⇒【賢く走る】を感じます。


 オシム監督について今更語る必要性も無いと思いますが【走る】だけが一人歩きしている訳ではなくチームコンセプトと戦術がハーモニックに活かされているから選手にも浸透しているし信頼感は揺るぎ無いものでしょう。


 オシム語録も、それだけを取り上げれば一人歩きしてしまいそうですがゲームの流れに「タイトル」を付けたように簡潔明瞭なフレーズで表現できるのは経験豊富であり多くの情報を集約して旨味だけを凝縮して作り上げたデミグラスソースのような芳醇な香りを「オシム監督の薀蓄=語録」から感じ取れます。


 【走る】をオシム語録に准えてみれば判り易いと思いますが辿り着くまでに試行錯誤を繰り返した経験をベースに不用な贅肉を削ぎ落として必要な要素を凝縮することによって【賢く走る】に活路を見出したように思います。


 オシム監督でなくともチームが選手補強してくれる潤沢な資金があれば夢の実現は容易かも知れませんが自身の選手時代からユーゴスラビア代表監督も含めて厳しい試練に耐え続けてオーストリアの弱小チームを短期間に国内トップにまで作り上げた手腕は疑う余地も無いと思います。


 主力選手の放出したオーナーと対立してチームを去ってしまった悲しい過去をジェフユナイテット千葉の放出劇では同じ過ちを引き摺ってしまう愚行より残された選手の育成に活路を見出して「最小の補強で最大の強化」を実現したのである。


 タイトルから少し脱線してしまいましたが【賢く走る】とはどのような走り方なのであろうか興味を持たれる指導者も多い筈である。


 まして、日本のサッカー指導には欠かせない要素であり走らされた経験は誰もが持ち合わせているから次元の低い走りに関しては除外して【賢く走る】 ⇒ 賢く行動する事がゲームを支配する大切な要素であると思います。


 しかし【賢く走る】には基礎となる走れる身体が必要であり愚鈍・愚直に走ることを厭わない強靭な体力と気力が備わっていなければならないのです。


 相手に対して優位に試合を支配するには愚直に素早く行動する事がAutomaticに出来るのが【賢く走る】第一歩であり「何処に何故、相手より早く走るのか。」が守攻の基本戦術として理解出来るようになる筈です。

 当然グループやチームで意識統一されてくれば連動性・同時性は言うに及ばす揺るぎ無い信頼感が生まれて連帯感のような強靭なスタミナが備蓄されてくれば、決して走る事が初歩的手法では無い事が体感出来る筈です。


 スポーツに限らず人の営みでも基本的な[素養=走る]を極める事がいかに大切かということを選手に理解させるだけでなく指導者の心眼も研ぎ澄ませて欲しいものである。


 疲れを知らない疾走を繰り返す事の出来る中庸速筋型のサッカー選手が、これからの日本サッカー界に必要不可欠であると言われますが中庸速筋は先天的に存在するものではなく心身共にOverloadに鍛え上げられる事で徐々に形成されるようですが専門家ではないので詳しくは解りませんがクロスカントリーのように野山を疾走するような野生の躍動を次世代のサッカー選手に期待したいものです。